預金の使い込みについて (2)
2024/05/02
預金の使い込みについては以前もお伝えしました (参照)。今回は、これを裁判所で争う際の手続きについてお伝えします。
通常の遺産分割は、家庭裁判所の遺産分割調停が用いられているため、使い込みを遺産の中に戻すように要求する場合も、直感的にはこの遺産分割調停で話し合うのかなと考えてもおかしくありません。しかし、実際には遺産分割調停で話ができる場合もあるものの、そうでない場合があります。
目次
遺産分割調停で話し合える場合
預金の使い込みについて遺産分割調停で話し合いができる場合は、使い込みの主張内容に関して相続人間に争いがない場合です。
具体的には、使い込んだとされる相続人がその事実を認め、使い込んだ金銭を遺産に含めて分割を進めることに応じている場合です。しかし、これは経験上では、どちらかというと少ないケースかと思われます。
地方裁判所(または簡易裁判所)での訴訟となる場合
前述の合意ができない場合、不当利得返還請求訴訟(または損害賠償請求訴訟)を行う必要があります。地方裁判所 (または簡易裁判所)で行われ、遺産分割調停が行われる家庭裁判所は別となります。例えば、名古屋ですと、名古屋家庭裁判所と名古屋地方裁判所は同じ名古屋市中区丸の内にあるものの、担当する裁判官も異なり、それぞれ一から手続きを進める必要があります。
結果的に遺産分割調停と訴訟が並行して行われる必要がありますが、訴訟の結果がわからない場合には、先行して調停を進めても、使い込みの対象となる財産を遺産に含まれるか不透明なままですので、遺産の分配をどうするのかを決めることが事実上困難になります。
このため、訴訟の結論が出るのを待って遺産分割調停を進めるケースが大半です。
このように訴訟と調停を両方行わなければならないことは、相続人にとっては負担となります。しかし、生前の使い込みについては、亡くなる前にすでに、現預金が被相続人の財産から使い込んだとされる人の手元に移っているため、遺産とは別物として、訴訟をするしか方法がないのが現状です。例外は、前述のとおり、使い込んだとされた人が、その使い込みの指摘を受け入れ、遺産に含めて分割を行うことを認める場合に限られます。
訴訟はどのような点が争点となるか
訴訟においては、典型的には以下のような点が争点となります。
1.実際に預金を引き出したか否か
使い込みを指摘された側は、「その預金引き出しはしておらず、被相続人が引き出したのだろう」と反論することがよくあります。この場合、本当にその相続人が預金を引き出したかどうかが争点となります。
2.被相続人のためにお金を使ったかどうか
使い込みを指摘された人物が引き出した事実は確認できた場合にも、次なる反論として「被相続人から現金引き出しの依頼を受けて引き出し、被相続人の入居施設への支払いに充てただけだ」という反論があり得ます。
これが事実である場合、被相続人が自らの預金を自らのために使うことを手助けしただけですので、不当利得返還は認められないこととなります。
3.贈与契約の主張
その他の反論として、引き出しはしたが、これは被相続人から贈与されたのだ、という反論もあり得ます。これが事実であると認められれば、不当利得返還請求訴訟としては認められないこととなりますが、遺産分割調停において特別受益の問題にシフトします。
まとめ
このように使い込みの問題は、遺産分割調停とは別に、民事訴訟を行う必要があるため、裁判の負担は大きくなる傾向にあります。しかし、適切な裁判活動を経ることで、被相続人に無断で行われた使い込みの財産を遺産を含め適切に遺産分割を行うことができるケースも多々あります。
相続人の遺産について不審な点を発見した場合には、どういった対応が可能かを検討したうえで、遺産分割に進むことが望ましいといえます。
----------------------------------------------------------------------
法律事務所 光琳
弁護士 若山 智重
愛知県名古屋市東区葵1-25-7 AOI FA BLDG 5F
電話番号 :
052-990-3208
FAX番号 :
052-307-3051
対応地域 :
愛知県 (名古屋市)、岐阜県、三重県
取扱分野 :
相続問題 (遺産分割調停・遺留分侵害額請求・遺言書作成)
交通事故 (過失割合・後遺障害等級)
離婚問題 (不貞・慰謝料請求)
----------------------------------------------------------------------