相続放棄後における不動産管理責任
2024/09/05
多額の債務や利用価値の乏しい不動産を多く残された方の相続が発生した場合、これらの負の遺産を相続しないために相続放棄という選択肢がよく用いられています。しかし、この相続放棄に関してしばしば問題となってきたのが、遺産に含まれる不動産を放置していいのかどうか、という問題です。
これまでは、すべての相続人が相続放棄をし、誰も不動産に手出しできず関係者が困る事態が生じた場合、相続放棄をした相続人らにプレッシャーがかかり、やむなく費用をかけて相続財産管理人(現:相続財産清算人)を選ぶ対応をとることもありました。
今回はこの問題に関して、近年行われた法改正も踏まえつつお伝えいたします。
目次
相続放棄をした方の責任を定める条文の改正
相続放棄をした方の責任について、従来の民法940条1項は次のように定めていました。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
簡単にいえば、たとえ相続放棄手続きを取った方であっても財産管理(不動産管理)をすべき可能性が残るという内容です。これまではこの条文があったことで、相続放棄をされた方でも他に相続人が見当たらないケースでは、遺産に含まれる負の不動産について管理していかないといけないのか、という不安が付きまとっていました。また実際に、相続放棄をしたにもかかわらず50万円~100万円の費用を投じて相続財産管理人(現:相続財産清算人)を選び、不動産の処分を行う事案もありました。
この条文について令和5年4月1日に法改正が施行され、いまは次のようになっています。
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」
では、この法改正によりどう変わったのでしょうか。
法改正による変化
これまでの条文はやや曖昧なところがあり、先述したように「せっかく相続放棄をしたのに管理は続けなければいけないのか」という問題が発生していました。この点に関し、法務省も「法定相続人の全員が相続の放棄をし、次順位の相続人が存在しない場合や、相続放棄者が相続財産を占有していない場合等において、相続放棄者が管理継続義務を負うかどうかや、その義務の内容は、必ずしも明らかではな」かったとしています(『財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)』)。そこにメスを入れたのが今回の法改正です。
法改正がなされたことにより、現在の法律では相続放棄をした方のうち一定の場合にだけ責任を負うこととなりました。具体的には相続財産に属する財産を現に占有する者が相続の放棄をする場合に限り、管理責任を認めることとしたのです。つまり、その不動産と全く無関係に過ごしてきた相続人であれば、相続放棄後はその不動産について責任を負う心配がなくなったということです。
法改正後も責任を負う場合
このように法改正はなされましたが、一定の場合には相続放棄をした方でも責任が伴います。次に、その内容についてお伝えします。
まずは、責任を負うかどうかの大きな分水嶺である「現に占有」という条件ですが、その不動産に住んでいればもちろん「現に占有」しているという条件を満たしますが、それ以外でも、「対象の家屋に占有者自身の家財や荷物等を保管している場合や、対象となる家屋の鍵 を保有している場合には、占有者に当たる可能性があります」とされています(国土交通省『相続放棄者の空き家の管理責任の考え方について(情報提供)』)。
このように、相続放棄をしたとしても、その不動産を物置にしていたり鍵を預かっていたりした場合には責任を負うことになるのです。
今後気を付けるべきこと
このように、法改正がなされたことにより、相続放棄後に不動産管理に責任を負うかどうかはある程度明確になりました。
もし、将来的にどなたかの遺産につき相続放棄を考えている場合には、とりわけ、その相手が不動産を保有している場合には、その不動産に自分の所有物を置くことや、頼まれて鍵を預かることには慎重にならなければなりません。さもなければ、単に好意で鍵を預かっていただけでも相続放棄後の責任の有無が変わってしまうのです。
まとめ
お伝えしたように、法改正がなされたことにより、相続放棄をした方が遺産の管理に責任を負うかどうかはかなり明確になっています。もし、相続放棄をしたのちに亡くなったかたの近隣住民や関係者から遺産の管理を求められた場合には、ここでお伝えしたことを踏まえて対応をご検討ください。
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