不貞行為の相手に慰謝料を請求する流れと押さえておきたいポイント
2026/10/07
配偶者の不貞行為が発覚したとき、その相手方にも慰謝料を請求できる場合があります。
ただし、請求が認められるには一定の要件があり、進め方によっては受け取れる金額が下がりかねません。
ここでは、不貞行為の相手に慰謝料を請求する手順と、事前に知っておきたい点を紹介します。
不貞行為の相手に慰謝料を請求できる場合
配偶者の不倫が発覚したからといって、どのようなケースでも相手方への請求ができるわけではありません。
慰謝料の対象となる不貞行為
不貞行為とは、配偶者のある人が、自由な意思に基づいて配偶者以外の相手と性的な関係を持つことを指します。
食事やメッセージのやり取りにとどまる関係は、原則として不貞行為にはあたりません。
もっとも、肉体関係が認定できない場合でも、交際の態様や程度によっては、婚姻共同生活の平穏を侵害したとして不法行為が成立する可能性があります。
不貞行為をした配偶者と相手方は、夫婦の生活の平穏を共同で侵害した者として、共同不法行為責任を負います。
相手方が既婚者と知っていたか(知り得たか)が問われる
請求が認められるには、相手方に故意または過失があったことが必要です。
つまり、相手方が既婚者だと知っていたか、注意すれば知ることができた場合に、責任が生じます。
配偶者が独身だと偽り、相手方がそれを信じたことに落ち度がなければ、責任を問えません。
婚姻関係がすでに破綻していた場合
不貞行為の時点で夫婦関係がすでに破綻していたときは、特段の事情がない限り、相手方は慰謝料を支払う責任を負わないとするのが判例です。
破綻した後の関係では、法的に保護されるべき夫婦の生活の平穏がもはや失われていると考えられるためです。
破綻していたかどうかは、別居の有無や期間など、当時の夫婦の状況から判断されます。
相手方から「夫婦関係はすでに破綻していた」と反論されることも少なくないため、当時の夫婦の様子がわかる資料も整理しておくとよいでしょう。
請求できる期間には制限がある
慰謝料の請求権には消滅時効があり、期間が過ぎると請求できなくなります。
民法724条は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年という2つの期間を定めています。
「加害者を知った時」とは、判例上、相手方に対して請求することが事実上可能な程度に知った時をいうとされています。
そのため、不貞行為に気づいていても、相手方の氏名や住所がわからず請求のしようがない間は、3年の期間は進まないと考えられます。
注意したいのは、不貞関係が長く続いている場合です。
判例は、不貞関係が続いていても、それぞれの不貞行為による損害ごとに、配偶者がそれを知った時から時効が進むとしています。
関係が終わるのを待っているうちに、古い時期の不貞行為の分から順に請求できなくなるおそれがあります。
離婚そのものの慰謝料は原則として相手方に請求できない
不貞行為の相手方に請求できるのは、原則として、不貞行為そのものによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料です。
最高裁は平成31年2月19日の判決で、離婚したこと自体についての慰謝料(離婚慰謝料)は、特段の事情がない限り、不貞行為の相手方には請求できないと判断しました。
離婚するかどうかは、本来その夫婦の間で決められるべき事柄だからです。
ここでいう特段の事情とは、相手方が夫婦を離婚させる意図で婚姻関係に不当な干渉をするなどして、離婚のやむなきに至らせたと評価できる場合を指します。
もっとも、不貞行為によって離婚に至ったという事情は、不貞行為そのものの慰謝料の額を判断する際に、増額の方向で考慮されることがあります。
この区別は時効にも関係します。
離婚が成立してから請求しようとしても、不貞行為と相手方を知ってから3年が過ぎていれば、相手方への請求は難しくなる点に注意が必要です。
不貞行為の相手に慰謝料を請求する流れ
慰謝料の請求は、証拠の確保から始まり、交渉、そして訴訟へと段階を踏んで進みます。
証拠を集めて相手方を特定する
最初に取り組むのは、不貞行為があったと示す証拠の確保です。
証拠として有力なものとしては、次のような資料が挙げられます。
- ホテルへの出入りがわかる写真や動画、探偵社の調査報告書
- 性的な関係をうかがわせるメッセージやメール
- 宿泊をともなう旅行の記録やクレジットカードの明細
- 配偶者や相手方が不貞行為を認めた発言の録音や書面
もっとも、配偶者のスマートフォンを無断で操作したり、相手方の自宅や車に機器を仕掛けたりする方法は、それ自体が新たな法的トラブルを招くおそれがあります。
証拠の集め方に迷う場合は、行動に移す前に弁護士へ相談することをおすすめします。
あわせて相手方の氏名と住所も必要ですが、電話番号や勤務先しかわからない場合でも、弁護士会照会などの手続により調べられることがあります。
内容証明郵便で慰謝料を請求する
証拠がそろったら、不貞行為の事実や請求額、支払期限を記載した内容証明郵便などで相手方へ請求します。
時効の完成が近い場合でも、この請求(催告)をすれば、時効の完成が6か月間猶予されます。
ただし、催告を繰り返しても猶予は延びないため、その間に訴訟を起こすなどの対応が必要です。
請求額は、婚姻期間や不貞行為の期間・回数、未成年の子どもの有無、どちらが関係を主導したか、別居や離婚に至ったかといった事情で変わります。
法律で定められた金額はなく、裁判例や示談では数十万円から300万円程度が一つの目安として示されることもありますが、個別事情によって金額は大きく異なる点には注意が必要です。
話し合いがまとまれば示談書を作成する
相手方から返答があれば、支払額や支払方法をめぐる交渉に移ります。
合意ができた場合は、その内容を示談書として書面に残しておきましょう。
示談書に入れておきたい条項には、次のような内容があります。
- 慰謝料の金額と支払期日、振込先
- 今後は配偶者と接触しないという約束と、違反した場合の違約金
- 示談の内容を第三者に口外しないという取り決め
- 相手方が配偶者への求償権を放棄するという合意
- 示談書に定めたもの以外に債権債務がないことを確認する清算条項
支払いが分割になる場合は、強制執行認諾文言を付した公正証書を作成しておけば、支払いが滞った際に訴訟を経ずに給与や預金の差押えを申し立てることができます。
応じない場合は訴訟を検討する
交渉がまとまらないときには、訴訟という手段が残されています。
訴えを起こす先は、原則として、請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、これを超えれば地方裁判所です。
配偶者との離婚訴訟を家庭裁判所で行う場合には、相手方への慰謝料請求をあわせて家庭裁判所に提起することもできます。
審理では、不貞行為の事実と相手方の故意または過失を、請求する側が主張し立証します。
提出した資料で事実を認定できなければ請求は退けられるため、証拠の質が判決を左右します。
請求を進める前に知っておきたい点
請求そのものが通っても、手元に残る金額や請求の方法しだいで、思わぬ不利益を招くことがあります。
配偶者からの支払いも請求額に影響する
慰謝料は、不貞行為の相手方だけでなく配偶者にも請求でき、両者は連帯して支払う責任を負います。
ただし、同じ損害について二重に受け取ることはできません。
たとえば、離婚の際に配偶者から慰謝料を受け取っていれば、その分は損害が埋め合わされたものとして、相手方への請求が減額されたり、認められなかったりすることがあります。
裁判例にも、夫がすでに妻に500万円を支払っていたことから、妻の損害は埋め合わされたとして、不貞行為の相手方への請求を退けたものがあります。
他方、離婚協議書で配偶者との間に「ほかに債権債務はない」と定めただけでは、相手方の責任までは当然には消えないとされています。
離婚時に受け取るお金に慰謝料の趣旨が含まれるのかどうかは、相手方への請求を考えるうえでも整理しておきたい点です。
求償によって手元に残る額が変わる
相手方が慰謝料を支払った場合、配偶者に対して、本来負担すべき割合を超えた部分の支払いを求めることができ、これを求償といいます。
負担の割合は一律に半分ずつと決まっているわけではなく、どちらが関係を主導したかといった事情によって変わります。
夫婦が離婚せずに生活を続ける場合、求償に応じれば家計からお金が出ていくため、実質的に受け取る額が目減りしてしまいます。
そのため実務では、相手方に求償権を放棄してもらう代わりに、慰謝料の額を調整して示談する方法がとられることもあります。
感情に任せた行動は控える
請求を有利に進めるつもりの行動が、かえって自分の立場を悪くすることもあります。
たとえば相手方の勤務先や家族に不貞行為を言いふらせば、名誉毀損やプライバシー侵害を問われかねません。
また、「職場や家族に知らせる」などと告げて支払いを迫れば、正当な請求であっても、恐喝罪や強要罪に問われるおそれがあります。
執拗な連絡や攻撃的な行為によって、反対に損害賠償を請求される可能性もあるため、やり取りは冷静に進めることが大切です。
まとめ
不貞行為の相手方への慰謝料請求では、証拠の確保に加え、相手方の故意・過失や婚姻関係の状況も重要になります。
また、離婚そのものの慰謝料は原則として相手方に請求できず、不貞行為を知った時からの時効も進むため、離婚を待たずに早めに対応することが大切です。
法律事務所光琳では、不貞行為の慰謝料に関するご相談を承っております。
請求の進め方や金額の見通しでお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
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法律事務所 光琳
弁護士 若山 智重
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