相続の際の限定承認について
2024/04/11
相続が発生した際には相続放棄という選択肢を意識しなければならないケースがあります。
典型例は被相続人に多額の借金があった場合です。相続は、相続人は亡くなった方のプラスの財産もマイナスの財産もすべて承継しますので、被相続人が生前に多額の借金を負っていた場合、相続人がその負債も引き継ぐことになります。
それを避けるためには相続放棄という手続きが必要ですが、この相続放棄には原則として3カ月という期限がありますので気を付けなければいけません。
さて、被相続人に明らかに多額の借金があることがわかっていれば、この相続放棄を選択すればそれで足ります。しかし、「プラスの財産もそれなりあるようだから、トータルしたらプラスの方が多いかもしれない」という場合や、「生前、交流がなかったから、そもそも財産状況がわからない」といった場合はどうしたらいいでしょうか。相続人として財産を調査することもできますが、いざ「相続放棄をしなければ」と気づいたときに先述の原則3カ月というシビアな期間に間に合わなくなるということも起こり得ます。
そのような場合に一つの選択肢として知っておくべき方法が「限定承認」という方法です。実はこの方法、あまり使われていませんが、その理由も含めて解説します。
目次
限定承認とは
相続する際の選択肢としては、単純承認、限定承認、相続放棄の三種類があります。「単純承認」は一般的な相続のことで、財産も負債も何もかも承継することになります。最後の「相続放棄」は対照的に一切何も引き継がないということです。
「限定承認」はこれらの中間の方法で、相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を弁済することになります。言い換えると、亡くなった方の負債について相続財産中のプラス財産を上限として責任を負うというものです。
メリット/デメリット
限定承認のメリットは、亡くなった方の財産状況の収支(プラスが多いのかマイナスが多いのか)がわからないときや、そもそもまったく情報がないときでも、遺産のプラス部分を引き継ぐ可能性を残すことができるという点です。
デメリットとしては、この限定承認という方法は、①裁判所での手続きが必要で、簡単ではないこと(なお、裁判所の手続きが必要なのは相続放棄も同様です。)、②結果的にマイナス財産が多いことがわかれば、限定承認の裁判手続きを取ったとしても何も手元に残らないこと、③相続人共同でする必要があること、などがあげられます。
なぜ使われないのか
直近の司法統計によれば、相続放棄は27万件以上の件数があるようですが、限定承認はわずか775件程度で、利用状況には非常に大きな差があります。このようにあまり限定承認が使われない理由としては、上述したデメリット①~③が大きいかと思われます。
また、単純承認・限定承認・相続放棄のどれを選ぶべきか迷う場合には、検討期間の延長制度もあるため、亡くなった方の財産状況が不透明であっても、じっくり3カ月以上の時間をかけ精査し、プラス・マイナスのどちらが見極めてから単純承認か相続放棄を選ぶこともできます。このため、敢えて中間的な限定承認を選ぶ方が少ないと思われます。
どういう場合に限定承認すべきか
このように、あまり使われていない限定承認ですが、敢えて選ぶケースは以下のようなものがあげられます。
まずは、相続人が相続財産の内容を把握できないため限定承認を選択する場合です。特に自宅といった残していきたい財産が明らかになっている場合(その一方で、負債が巨額であった場合にすべてを引き継ぐのは避けたい場合)には、相続放棄ではなく限定承認を検討することが必要となります。
また、プラス財産であれマイナス財産であれ、財産について訴訟が行われているときにも限定承認を検討することがあります。すなわち、その訴訟の結果次第で財産全体がプラスになるか債務超過になるか不透明な場合です。その他にも被相続人と疎遠にしていたので、思わぬ債務が出てくるかもしれないということを心配して、限定承認を申し立てる場合もあります。
まとめ
このようにあまり知られていない、かつ、あまり使われていない限定承認制度ですが、場合によっては有効な対処方法となることがありますので、頭の片隅に置いておいて損のない制度です。
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