配偶者居住権とは
2024/03/08
配偶者居住権は、令和2年4月から認められるようになった比較的新しい権利です。
夫婦の一方が亡くなった場合において、残された配偶者を保護するための制度であり、残された配偶者は、亡くなった人が所有していた建物に、「亡くなるまで」又は「一定の期間」、無償で居住することができる権利です。
新たに法改正がなされた理由
これまでの制度では、次のような問題点指摘されていました。
1. 残された配偶者が居住する不動産を相続する場合
自宅には住み続けられますが、現金について他の相続人が相続することになり、残された配偶者の生活費が確保できない場面も生じていました。
2. 残された配偶者が現預金を取得した場合
不動産は別の相続人が取得したことにより、その取得した相続人の判断や都合により、長年暮らしてきた自宅に安心して住み続けられない可能性がありました。
これらのいずれの問題にも対処すべく、不動産の価値を「所有権」と「居住権」に分離し、残された配偶者が亡くなるまで安心して住み続けられる権利が作られました。これが配偶者居住権です。
また、この際の法改正により「配偶者短期居住権」という似たような制度も作られました。名前は似ていますが、こちらは一時的な権利なので安心して同じ家に住み続けるというほどの効果はありません。
配偶者居住権が認められる要件
配偶者居住権が認められるためには、①法律上の配偶者が、②亡くなった人が所有していた建物に居住しており、③配偶者居住権を取得する手続きをとったこと、が必要です。
①・②は前提条件のようなものですので、もっとも肝心なのは③です。③は、要するに誰かが「配偶者居住権を定めるぞ」という意思決定をしないと、自動的に生じるものではない、ということです。
言い換えますと、「法律で配偶者居住権という権利が認められたらしいから、夫(又は妻)が亡くなったとしても安心だ」ということは全くなく、しかるべきタイミングにしかるべき方法でこの権利を使う意思決定をする必要があるのです。
意思決定の方法
方法は大きく分けると二つです。
1.遺言(生前の対応)
自宅の所有権を有する配偶者が遺言において、もう一方の配偶者に「配偶者居住権を定める」との遺言を書くことができます。
2. 遺産分割(相続開始後の対応)
遺言がない場合にも、遺産分割協議において定めることができます。
このように、法律の位置づけ、権利を行使するタイミング・方法を理解すれば、そこまで難しいものではありません。しかし、そもそも、どういった状況だったらこの権利を使うべきかということの判断は簡単ではありません。また、もともと存在していなかった権利ですので、他の相続人も、「何のための権利なのか」、「どういう意味があるのか」、というところを正確に把握している方が稀ではないでしょうか。
配偶者居住権を使うべき場面
1. 遺産の中で自宅の占める割合が大きい場合
遺産の中で、現金は少額であり、遺産の大半を自宅不動産が占めているケースです。
この場合には、配偶者居住権を設定することで、自宅の不動産を、「所有権」と「配偶者居住権」に分散させることができます。これにより各相続人に一定程度公平に財産を分与することが可能になります。
2. 配偶者に預貯金などを相続させたい場合
残された配偶者が自宅不動産の所有権を丸ごと相続する場合と比較すれば、相続する権利を配偶者居住権にとどめることで、併せて現金を相続する余裕が生まれやすくなります。このため、残される配偶者が現金を多めに相続したい場合は、所有権ではなく配偶者居住権として自宅の居住権を確保することも検討すべきでしょう。
まとめ
配偶者居住権は、まだまだ新しい権利ですので、存在自体もそこまで知られていませんし、どういった場合に有効活用できるかは知られていないことも多いと思われます。
「自宅に安心して住み続けたい」、「相続人は複数名いるけれど、自宅以外にこれといった財産がない」という場合には、一度この配偶者居住権を有効活用する方法があるかどうか確認してみることをお勧めいたします。
この記事だけではよくわからない場合もあると思いますので、いつでもご相談ください。
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