『悪は存在しない』

大谷翔平選手や藤井聡太八冠と引けを取らない勢いで映画界を席巻している濱口竜介監督の新作『悪は存在しない』を観ました。

第一に感じたことは、過去の濱口監督作品と比べてもどれとも違うテイストだということ。『ヨーロッパ新世紀』や『ラブレス』といった作品を想起させる新境地を目にした感覚でした。また、ラストの宙に放り出される感じなどは、『或る終焉』や『複製された男』を思い出しました。

この映画には（特にそのラストには）多くの観客に疑問符を浮かばせるところがあったと思います。しかし、それこそがこの映画の目指すところなのかなと思いました。
終わってから時間が経ったいまでも「あれはなんだったんだろうか」と、この映画のことを考えたくなる強度があります。このような豊かな余白こそが魅力の一つなのでしょう。

この映画のラストは完全に観客に解釈を委ねる手法です。これについてはまだ私の中で答えらしきものすら見当たっていません。ウェブ上ではいくつか答えのような意見も見聞きしましたが、本当に腑に落ちる意見は見かけませんでしたし、ロジカルに導き出せる正解は無いのだろうというのが今の結論です。
監督自身のインタビューでは、次のようなコメントがありました。

「そうですね。タイトルも含め、自分が解説して、なにかの解釈に収斂させないことが大事だとは思っています。自分も正直、最初の観客みたいなもので、『こうなるのか』って思いながらやってますから」

こういった一つの正解を求めない姿勢が、信頼と支持を得る所以なのでしょう。